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2011.10.24閑話その5:音についての考察

私は昭和37年(1962年)生まれで、この世に生を受けて間もなく半世紀を迎えようとしています。 この間、日本の住宅の変貌には目覚ましいものがあります。 物心ついた頃の住まいの部屋はすべて畳敷き。 小さな板ガラスが嵌まった木枠の窓は隙間だらけ。 壁の中や天井裏からネズミの足音や鳴き声が聞こえるのは、断熱材もなく、床下からネズミが潜り込める隙間があちこちに開いていたからでしょう。 冷暖房がなければ室温は屋外の気温とほぼ一緒。 雨風がしのげて、家族や家財道具が安全ならばそれで十分、といった感じがしました。

現在の注文住宅ではありえない事だらけですが、懐かしさを覚える住まいでした。 むしろ現在の住宅に快適性を追求するあまり、人間の「生き物」としての能力を低下させる環境になってしまわないか、と危惧してしまいます。 建築会社の社員がこんなことを言っていては叱られそうですが…。

建物の高耐久性・長寿命化や省エネ対応には全く異存はありません。 バリアフリー対策も、ユニバーサル・デザインの重要性を意識すれば、導入しておくべきものでしょう。 個人的には、メリハリのついた床段差など多少の“負荷”を残しておいて、身体的運動機能を維持する励みにできれば、と思うこともありますが。

唯一、音の問題については、プライバシーを重視するあまり、徹底した遮音性や静粛性を極めることには抵抗を感じます。 適度に伝わる音を確保する方が、社会や家族とのつながりを保つことになると思うからです。


人間は社会を構築している生き物です。 周囲の人と全くの孤立無縁では生きていけません。 他人の気持ちを察する、気配りをする、気持ちが伝わる、思いやる。 これらはみな心の作用ですが、人間の五感の中でも聴覚で得るもの、つまり“音・音声”が最も重要な媒介だといえます。

日常生活において、音や音声が相手の存在や意思を知るための、最初の接点になることがほとんどです。 円滑な人間関係を築くためには、双方が心地よく感じる音や音声を心掛ける必要があります。 そのために音や音声を発するタイミングや音量、音質、音の内容などが問われることになりますが、要は気配りが重要だということに尽きるでしょう。 音を発するのにTPOをいちいち考えるのは面倒だと、一切音が漏れてしまわないように遮音・防音を徹底すれば構わないように思えますが、別の弊害が気になります。

相手に音が伝わらないと思うと、音を立てることに無配慮になります。 気遣い気配りに無頓着になりやすくなる気がします。 同時に、相手側からも伝わってくるものがなくなります。 社会や家庭の中で孤立してしまう危うさを感じます。

防犯や防災上も、程良く屋外の音が聞こえる方が有利です。 自宅周囲で何らかのトラブルが発生すれば、危険を知らせる音や音声が必ず発せられるはずです。 そうした音情報をいち早くキャッチすることが危険回避や、安全確保につながっていきます。

40年前頃のご近所づきあいは、今よりも大らかで開けっ広げなところがあり、兄弟喧嘩をしたりすれば近所に筒抜け。 その場に両親がいなければ隣のおばさんが、喧嘩をたしなめに顔を出すこともありました。 映画「男はつらいよ」の草団子屋で繰り広げられた光景は、身近な場所の此処彼処で見られたものです。 子供たちが悪さをすれば他人の子であろうと叱りつけていましたし。 地域全体で町内の子供たちを見守る風土があったのも、子供たちの声や気配が察しやすかった、当時の家の造りによるところも大きいように思えてなりません。


とはいえ、快適さを追求して進化してきた現代の住宅を屋外の音が聞こえるように、わざわざ遮音性能を下げることは無益です。 往時に較べればはるかに遮音性能が高い現代の住宅に、過剰な遮音性能を付加する必要がないだけだと思います。 むしろ屋外の音が静かに感じる分、相対的に室内の音が気になりはじめます。 だからといって個室ごとの遮音性能を上げようとしないこと。 家族の気配を感じつつ、お互い邪魔にならないよう音のたて方に気を配るだけのことです。 平常時の様子が分かっていれば、何らかの異常事態が起こったときにも、いち早く気付くことができます。 そんな「あ・うん」の気遣いこそが、家族の絆なのではないでしょうか。  (投稿者:M.H)

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