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2010.09.06閑話その2:軒内は格好な地域コミュニケーションの場

日本人にとって雨に濡れることは好ましいことではありません。 濡れたままでは不衛生不健康の元です。 風邪をひく原因にもなります。 水資源として雨の恩恵をありがたく思っても、雨に濡れて快く思う人は、そう多くはないでしょう。 雨が降り始めたら一目散に雨宿りできる場所に避難します。 そこは屋根のあるところ、軒下(軒内)です。

人通りに面した建物に軒下があれば誰でも雨宿りをします。 多くの場合、雨宿りをしている人に文句を言う建物の主はいません。 不意な雨降りがあれば、雨宿りする人が現れることは仕方ないことだと承知しているからです。 ある意味、軒下を貸し出すことは暗黙のうちの、公共的な役割かもしれません。 どうしても軒下に他人が入り込むことが不都合なら、さりげなく入り込めないようにしておけばよいのです。

京都の町屋では軒下に駒寄せ(犬矢来ともいう)を設置して、人や動物が軒下に入ることを防止する場合があります。 なんとも人情が無いと勘違いしそうですが、主に商家や料理店で設置されることが多く、重要なお客さんが商談をしている内容を外部に聞かれないように、敢えて軒下借りお断りを宣言しているそうです。 一見さんをお断りしてでもお得意様を大切にし、信用を第一に掲げる京都らしい風習だといえます。



ともあれ、軒下を雨除けなり日除けなりで提供することは、「サービス=もてなし」につながってきます。 屋外とはいえ軒下は建築物の一部ですから、そこへ立ち入るには所有者の許可が必要です。 暗黙の了解という場合もありますが、やはりその家の人に「どうぞ休んでいって下さい。」とか「こちらで涼まれてはいかがですか。」と声をかけて貰えると、心置きなく寛ぐことができます。 さらに縁台や腰掛けを勧められ、飲み物が運ばれてくると、これはもう接待を受けているようなもので、気心が知れた仲でなければ恐縮してしまうほどです。 軒下の縁台や腰掛けに類似するものが縁側でしょう。 ご近所つき合いでちょっと立ち寄ったついでに、世間話をしていく情景が思い浮かぶ場所です。

軒下の縁台や縁側などは、日本人にとって重要なコミュニケーションの場所だったのではと思います。 とりわけ稲作を中心とした農業が、長い間主要産業だった日本において、各集落の共同作業は生活の基盤でした。 共同作業を円滑に進めるために、重要な話は座敷に集まって慎重に話し合ったのでしょうが、日常の連絡や情報交換は農作業の合間だったり、相手方の家へ立ち寄ったついでに伝えあったりすることが多かったでしょう。 立ち寄ったついでなら、屋外とつながりのよい軒下や縁側で、軽く休息しながらの会話は自然なものだったはずです。 座敷に上がるまでもないが屋外で立ちっ放しもなんだ、ちょっと縁側ででも腰掛けてお茶でも飲んで行ってよ、という感じで。

町屋や長屋の生活では、縁側からちょいと、とはいきません。 表から入ってすぐは土間納まりの店先や職人の作業場、長屋住まいではへっつい(かまど)と流し、水かめが置いてある入口土間から、すぐ部屋が一つあるきりです。 それでも履物を脱がずに手早く用件を済ませることのできる土間は、縁側と同じ役割を果たしていた軒内の一つのように思います。
土間の部分は「踏込み」とも呼ばれ、土足で立ち入ることのできる場所です。 入口の障子を開けて中の様子をうかがっている来訪者に、そんなとこに突っ立ってないで、ちょいとこっちへ入りなよ、と一声掛けて貰えれば、土足のままで立ち入ることのできる土間は、訪問者にとっても気遣いが少し楽になります。 他人の家の土間に踏み込んで、気軽に声が掛けられる間柄になるには、気心知れあうつき合いが必要です。


農家であろうと町屋であろうと、地域・集落の円滑な生活基盤を維持するためにはコミュニケーションは重要なもので、日常の防犯・防災、いざというときの助け合いまで支えられていました。 考えてみれば、なにも昔話に終わらせることなく、現代社会においても役立てれば結構なことだと思いませんか。(投稿者:M.H)

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